ボロボロの橋のある街
人の前には川がある。川は激流で100メートルも崖の下。
人は皆ボロボロの橋を毎日渡って生活している。
市場への道のりは3時間かかるがいつものことでもう慣れっこだ。
これが普通の人の生き方である。そしてある日突然それは起きる。
橋の由来
街の橋は当然誰かが作ったものだ。遠い過去に知恵と技術のある人によって。詳しくは残っていないが、年老いた親のために作ったのかもしれないし、街に住む人々のために作ったのかもしれない。もしかすると危険が迫った時に逃げるために緊急用として作られたのかもしれない。
ひとつ街で語られている理由は、過去に崖に人が落ちたという話だった。その恋人がもう誰も崖で命を落とさぬよう作ったという。尊い由来であることも不幸だったのか、それ以来橋がボロボロになっても修復されていない。
また人の落ちる
ある日それは起きる。ボロボロであっても急にそうなったわけでもないので、橋を使う者が徐々になれていった結果でもあった。
人が落ちた。
橋は踏み板がところどころ抜けていたものの支えている縄は丈夫で誰もがうまく渡っていたが、それが切れた。
たちどころに人は下に落ち流されてしまうことになった。人々は悲しみ哀れみ新たに橋を作ることになった。なるべく丈夫にこれまでのように使える橋を。
しかしそれに反発する者がいた。若い力のある少年だった。
少年飛ぶ
少年は街でも指折りの運動能力を持っているわけではなかったが、時に家族を守るために野生動物の前に立ちはだかる勇気を持っていた。
崖、川、橋、これらはそれを文字で見たものには想像をふくらませるのに十分な言葉であったが、それらを正確には表していない。というのもその崖や川は広くて10メートル狭いところなら4か5メートルそこらしかない。かと言ってその崖が高く、川が激流であることに変わりはないので人はやはり橋を使うに違いない。
しかしその時の少年は遂に途切れた橋に、これまで自分が囚われていた事に気づいた。試みるものもいなかったその川を少年は飛び越えた。
その衝撃の夜、街は歓喜の宴が続いた。
それ以降飛び越える若者が激増。街の流通は一気に変わることになった。
年寄り
しかしそれは危険を回避できたわけでもない。失敗すれば命はなくなる。年寄りたちは若者を集めしきりに飛び越えるのを止めるよう説いた。
若者にはそれはただの老害でしか無かったが、年寄りは邪魔をしようと思ったわけでもない。そしてその事故も確かに起きた。便利さと危険はまた同時にあるようになった。あの橋のように。
それでも
それでも若者は飛び、時に街の中で争いあった。更に暫くそんな日々が続いた後ある人が若者と年寄りの間に立った。
「同じ街で争うのはむなしい。私がお互いの話を聞くから存分に話してほしい」
その人は別の街から来た人で、同じように自分の村でも老若の争いが起こったと言う。
若者は年寄りが頭の硬い邪魔者だと言い、年寄りは若者が命を無駄にする馬鹿だと言った。
「はて、その問題はもう解決したようです」
よそから来た人はそう言うと若者と年寄りを握手させた。
「ここにある問題はお互いが認めて欲しいと言っているだけで解決したい本来の問題は同じようです。その問題について話すことにすれば何問題はないでしょう」
街の人々はハッとした。しばらく何を言われたのか分かっていない者もいたが後に理解した。そして理解の早かったものは直ぐに解決策の話し合いを初めた。
問題は
人の間にある問題の多くは本来の解決にあるのではなく、お互いを認めてほしいというだけの問題になりがちである。己ではなく、問題に集中すればそれはすぐに解決することだ。